( ^ω^)裏切りと暗躍のようです

1 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 16:27:31 ID:kC/0uo990.net
秋は鮮やかにやってきた。

床に紙質の硬い雑誌をずりおとし、
かわりに一枚の毛布を顎まで引っ張りげ、
一九四五年の秋にゴミ捨場で死んだパルチザンのように背をまるめ、
両膝を腹に引き寄せていつものようにけじめなく眠りについた。

俺の眠りはいつもそうだ。

たとえばこんな不吉なファンタジーをよく経験する。

カシミールの山の中をさまよっているとつゆ知らずにいつの間にか中国国境を越えている。

本人には越境の意志などまるでない。

しかし、自分の凍る息の輪からふと視線をあげると、
山稜には狙撃兵たちが送電線の雀のように並んでいるのが見える。

なにが起こったのか理解できないままに佇む。

きびしい声調の中国語の警戒が体に突き刺さる。

それでも俺は動かない。

動けないのだ。

数秒か数十秒後には結氷した顔面を一種の清涼感をともなって貫いていくライフル弾の予感がし、
予感はやがて確信に変わる。

確信は少しずつ恐怖に形を変え、恐怖はわずかの熱を呼び、凍った眉を溶かす。

水滴が流れ、眼に入りこみ視界がにじむ。

俺は、なぜか自分の部屋の窓辺にかけたままの洗濯物を思い出す。

折り畳み、鼻を押し当て、それから引き出しにしまわなければ。

こう寒くては凍って繊維がばらばらになってしまう。

俺はどこか知らない国の言葉で、山稜の雀たちに叫ぶ。

待て、撃つな。

洗濯物を取り込むまで待ってくれ。

150 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 20:23:45.981 ID:hUzUYxQlM.net

おつ!

136 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 19:51:10.459 ID:kC/0uo990.net

彼女が俺の名を呼んだ。

かすれた声だった。

強く受話器を耳に押しつけるために持ちかえようとしたときだった。

受話器の上辺が爆発して、
弾け飛んだ。

ついに世界の終わりのときがきたのかと思った。

受話器が弾けただけにしてはあまりにも巨大な音が響き、
駐車場の全体を揺るがせた。

( ^ω^)

俺は砕けた受話器を茫然と眺め、凍った。

なにがなんだかわからなかった。

わずか正気に返り、
入口のある方角へ向き直ってみて、
はじめてそれが銃声だとわかった。

(    )

三つ目の柱の蔭に、
半ば身を隠した男が立っていた。

男は右手で拳銃のグリップを握り、
左手は、
真っすぐに前に突き出した右の手首をしっかりと掴んでいた。

121 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 19:04:35 ID:Y78X+I0M0.net

( ゚∀゚) おっぺぇ!おっぺぇ!

144 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 20:00:55.085 ID:kC/0uo990.net

俺はいった

( ^ω^)「連れ込んだわけじゃないお。
      自慢じゃないが連れ込まれんだお」

救急車が駐車場に入ってきた。

二人の刑事の顔に赤い回転灯が映えた。

こいつらこそ地獄の番人にふさわしい。

( ´_ゝ`)「で、どうにかなるのかよ」

と流石がいった。

( ^ω^)「なにがだお」

と俺は問い返した。

( ´_ゝ`)「その恋がだよ」

( ^ω^)「どうにもならないお」

( ´_ゝ`)「おしまいか」

( ^ω^)「ああ、そうだお。
      おしまいだお」

( ´ー`)「だろうな」

と白根がいった。

( ´ー`)「満員電車の中でくしゃみして、
     誰かの恨みを買うようなやつに本気で惚れる女はいねえよ。
     経験上よくわかる」

俺は痛みをこらえながらいった。

( ^ω^)「余計なお世話だお。
      こう見えても一人前に傷ついているんだお。
      そっとしていてくれないかお」

それからゆっくりと両手でズボンのほこりを払い落した。

4 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 16:38:46 ID:kC/0uo990.net

(゚ー゚トソン

都村兎尊は微笑しただけだった。

(゚、゚トソン「まさかあなたが探偵になっているなんて。驚いたわ」

( ^ω^)「ネコに葉巻を吸う身分になれっていっても無理ですがお、
       人間はなりたいと念じればたいていのものにはなれるのですお」

(゚、゚トソン「念じればいいんですか」

( ^ω^)「そうですお。念じればいいんですお。それから努力をするんですお」

(゚、゚トソン「どんな努力?」

俺はコーヒーカップをとりあげて口に運んだ。

強いにおいがした。

アメリカ式の薄すぎるコーヒーを一時間に一リットル近く飲むタイプの男には刺激が強すぎた。

はじめて彼女と正対したとき、
実に奇妙なことに俺は高校の文芸部のニキビ面の男に部室へ引き入れられて見せられたエロ写真を思い出した。

文芸部の男は普段、
雪のうえに散った煤煙こそ私の悲しみである、
といったばかばかしい詩ばかり書いているくせに、
エロ写真を見つめる俺の表情を小ずるそうにうかがった。

その顔は「カンタベリー物語」の破戒僧よりも下品だった。

二本の指をさかさまのVサイン状に使って自分の性器を押し開く若い女は、むしろ気高い顔をしていた。

気分が悪くなり、その写真を彼に返した。

それから文芸部室のガラス窓を一枚叩き割った。

ニキビ面は怯えていた。

俺はそれ以来、美しい顔の女ほど醜い性器を持つと信じるようになった。

12 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 16:57:35 ID:kC/0uo990.net

(゚、゚トソン「ワインでいいかしら。少し残ってるの」

( ^ω^)「白だったら」

白だったらいらないと言おうとした。

どうせ冷蔵庫で身もふたもなく冷やしてあるはずだ。

風邪薬としてはふさわしくない。

(゚、゚トソン「赤。安物」

( ^ω^)「なんですかお」

(゚、゚トソン「コート・デュ・ローヌ」

( ^ω^)「そいつはいい。
       名うての安物だお。
       なまぬるいコート・デュ・ローヌを飲むとパリ時代を思いだすお」

(゚、゚トソン「あなたパリにいたことがあるの?」

兎尊は立ち上がりかけた姿勢のまま尋ねた。

( ^ω^)「ありますお、三日だけ。
       三年間、昼を抜いて団体で行ったんだお」

俺は台所の兎尊に向かって喋りつづけた。

ここからでも食器棚の隙間を通して兎尊の体の一部が見えている。

2 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 16:30:52 ID:kC/0uo990.net

眼覚めると、開け放した窓から風が吹きこんでいた。

平たくなったラミネート・チューブから最後の練歯磨を押し出すように勇気を振り絞り、
俺は床のうえに両足の裏をつけ、
それからゆっくり立ちあがった。

吹き込んでくる風にはもう夏の白さはなかった。

薄いレモン色のフリルがついていた。

そのくせどこか冷え冷えとしている。

俺は、昨日の夜の残りを温めなおした、いくらバンコクのホテルでも客に出さないほど味の壊れたコーヒーを口にした。

テーブルの上にスペースを無理に作ってコーヒーカップを置き、両腕で自分の足を抱いた。

処女を天蓋つきのワゴンで売っている若い女のポーズが似合うと考えているわけでは決してない。

寒かった。

秋の訪れは急だった。

満州の森の中で何カ月も剣を研ぎ続けてきた老人が、
ある夜明け前に突然立ちあがり、
今はインディアンペーパーよりも薄く研ぎだした剣に一度しごきをくれてから、
いきなり夏の空を切り落とした、
そんなふうだった。

出掛ける覚悟を決めれないでいた。

風の道になった部屋のまんなかにいながら、自分のいる場所を見失った気分になる。

「当惑」という文字が浮かび、底知れない居心地の悪さを感じる。

両手を祈るようにあわせて、女の脚の間にはさみこんで眠りなおしたいと痛切に思う。

しかし仕事は仕事だ。

88 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 18:21:16.171 ID:kC/0uo990.net

――

自分の部屋が近くなってから、
俺はスーパーマーケットへ寄ろうと思い立った。

シャンプーも切れていたし、
ネコにやるカリー印の缶詰と牛乳も買い足さなくてはならなかった。

俺のネコはいつも窓辺にいた。

雪の降る日に階段下の段ボール箱の中で震えているのをみつけ、
抱き上げて以来、いつも同じポーズで表を眺めていた。

時どき彼は置物に見えた。

猫の歓心を買うことが俺の歓心を買う手軽で安上がりな方法だと安易に錯覚した女たちは、
たいてい彼の歯をむきだすサービスを受ける。

バイソンの墓場に立ち尽くすシャイアン族の最後の一人のようなネコ、
ガンジスの悠久の流れを眺めゆる死期を悟ったインド人のようなネコ、
俺がつきあったうちではもっとも長続きした女の一人がそう形容したことがある。

女はネコが好きだった。

ネコのほうは彼女がきらいだった。

彼女はそのことを深く悲しんだが、
俺にはどうしてやることもできなかった。

ネコは彼女が訪れると、
ゆっくりと身を起こし、
木をつたって下界へ降りていき、
彼女が帰るまでは姿を見せなかった。

100 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 18:37:23.717 ID:kC/0uo990.net

(#´ー`)「おい」

刑事がこぶしで机を叩いた。

( ´ー`)「かっこつけるんじゃないぞ、探偵」

( ^ω^)「は?」

激しい口調とは裏腹に、
彼の顔に貼りついた薄笑いはまったく形を変えていなかった。

音声さなければ理想的な中年だった。

いい忘れていた。

それに歯磨きの習慣さえつけば。

( ´ー`)「お前だって、
     細っこい裏道を下向いて歩いてるタマだろ?」

( ^ω^)「はぁ」

( ´ー`)「なんだったら徹底的に服の埃を叩き出してやってもいいんだぜ。
     そういう態度を続けるつもりならな」

( ^ω^)「そんなつもりは毛頭ありませんお。
       ただ、俺はピストルで狙われるような大物じゃないと」

( ´ー`)「こっちが調査してやろう。
     心当たりの百や二百すぐに出てくるようになるさ。
     なんだったら今度の一件だけじゃないぜ。
     合計したら二百年くらい一人暮らしをするは破目になるかもな。
     警察ってのは一度やると決めたらけっこうやるぜ」

刑事はにやにや笑った。

笑い返して場の雰囲気をなぎゃかにする勇気はなかったので眼をそらした。

108 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 18:48:23.854 ID:hUzUYxQlM.net

保守しゅ

127 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 19:22:49 ID:rwvSaMkv0.net

しえん

20 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:08:58 ID:Y78X+I0M0.net

まじかよ、ブーン系かよ

145 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 20:01:21 ID:kC/0uo990.net

Fin

42 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:33:14.973 ID:7vA/0ps+0.net

いまどきVIPで投下とは猛者だな

146 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 20:03:02 ID:kC/0uo990.net

ご支援ありがとうございました m(_ _)m

98 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 18:34:50 ID:kC/0uo990.net

( ^ω^)「だからいったでしょ。
       これはピストルマニアの仕事だって」

( ´ー`)「そうじゃないかも知れないぜ」

( ^ω^)「そうに決まってますお」

( ´ー`)「とにかく、いまどんな仕事してるのか教えてくれよ」

( ^ω^)「仕事? なんてことはない調査ですお」

( ´ー`)「だからそのなんてことはない調査の内容だとか依頼人を教えてくれよ」

( ^ω^)「ありふれた市民が依頼した、いわゆる、ありふれた愛に関する調査ですお。
       こんな殺伐とした手合いとはなんの関係もありませんお」

( ´ー`)「ほう……」

刑事は鼻のさきで笑った。

( ´ー`)「ありふれた愛か。いいね。いいよ」

彼は両肘をデスクのうえに突き、
さらに身を乗り出して、
上眼づかいに俺の顔をのぞきこんだ。

なぁ、歯を磨いてきてくれよ。

それから俺の名前を呼んだ。

テレビ局でうろつく連中がそうするように「ちゃん」づけでだ。

俺はぞくっと身を震わせた。

歯槽膿漏の座敷イヌにペロリと顔を舐められた気分だった。

74 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 18:01:33 ID:sTPVx42qd.net

しえ

148 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 20:17:53.048 ID:g0G8gSXBa.net

乙desu

35 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:24:22 ID:5ildZxXra.net

支援

15 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:03:09 ID:kC/0uo990.net

( ^ω^)「汗がにおう、質の悪い香水がにおう、ポマードがにおう。
       他人の肉体が自分に押しつけられるというのは、ある種の覚悟を決めたとき以外は気分の悪いものですお。
       彼らの息もにおいますお。
       歯磨粉のハッカで隠しきれるものじゃない。
       胃弱と厭世と絶望のにおいがしますお。
       それがポマードのにおいと混じりあったひには……今もいるんですお、べったりと、まるでギアボックスにグリスをくれるように塗りつける男が。
       そんなにおいを嗅ぐと私も相当に厭世的になりますお」

(゚、゚トソン「それが地獄のイメージですか」

( ^ω^)「そうですお。
       地獄ってのは他人が作り出すものだと思っているでしょう。
       ところがこの極東の島では自分も地獄を構成する部品なんですお。
       それも生まれた時からそうなんだお、
       自分は地獄を作り出すために欠かせない部分品として生まれてきたんだと思い至って、はっとするんですお、満員電車の中で。
       針の山とか身を焼く業火とか、そういう古典的な地獄にさえ堕ちることはできないと気づくんですお、たとえ死んでも」

(゚、゚トソン「どこへ堕ちるんです、私たち」

( ^ω^)「もちろん新宿池袋間の朝の電車の形をした地獄ですお。
       つまり生きているときも死んでからもまるでかわりないってことですお」

(゚、゚トソン「暗い考えかたね」

( ^ω^)「暗い、とは言わないでくださいお。
       せめてリアルと言ってくださいお」

兎尊は自分も赤ワインに口をつけた。

テーブルに戻したグラスのふちに薄く口紅が残った。

俺は彼女の指先がそれをさりげなく拭き取るのを見ていた。

あまり気に染む仕草とはいえない。

口紅のついた指先を、今度はどこで拭って帳尻をあわせるのだろう。

102 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 18:41:22 ID:kC/0uo990.net

( ´_ゝ`)「白根さん」

と流石は、老いたチェシャーキャットみたいな中年刑事に声をかけた。

( ´_ゝ`)「こいつはね、一時グレてましてね、
     その頃からのつきあいなんですわ。
     正義の心情もだしがたく探偵になった、なんてほざいてますがね。
     実は探偵になりゃ女にもてるじゃないかと小知恵を働かせただけらしい。
     どうだ、おい」

と流石は俺の方の視線をとばして続けた。

( ´_ゝ`)「当てはずれだろう。
     深夜スーパーに通うようじゃ、女ひでりと貧乏とはいまでも仲良しらしいじゃないか」

(;^ω^)「あいかわらずだなぁ、毒舌」

( ´_ゝ`)「お前のほうは変わった。
     デブになった。
     とくに腹のまわりがふっくらしてきた」

( ^ω^)「酒場では羨望をサカナにして虚無を飲んでたからお、昔は」

流石は笑った。

喉だけを震わせる奇怪な笑い声だった。

( ´_ゝ`)「じゃなにかい、お前。
     いまは愛と希望をたらふく詰め込みすぎて、腹が突き出たっていいたいのかよ」

99 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 18:36:02.554 ID:kC/0uo990.net

( ´ー`)「その愛の物語について詳しく教えてくれないかな」

( ^ω^)「刑事さん」

と俺はいった。

穏やかでシャイな人柄を印象付けるべく努力して表情をつくった。

権力に弱い卑屈さをスパイスとしてふりかければ完璧なのだが。

( ^ω^)「刑事さん。
       勘弁してくださいお。
       とにかく亭主の浮気なんてのは本筋に関係ないんですお。
       俺はこう見えたって弱いものしか相手にしない。
       暴力とゆで玉子はえらく苦手なんですお。
       だいたいが離婚調査と行方不明のネコ捜しが専業のしがない、
       良心的な部分もありますが、とにかく大したことの全然ない探偵なんですお」

刑事は薄笑いを消さなかった。

この男なら誰かを射ち殺すときも薄笑いを絶やさないだろう。

雑然とした部屋の中をちらっと盗み見る。

( ^Д^)

不運な若い男の連れがぼんやりすわっている。

彼は片足のスニーカーを脱いで、
足指の先でもう片方の足のふくらはぎを黙々つまんでいる。

まだ友人の災難のショックから抜けきらずに、
逆に無感動な状態にあるらしい。

二人のタクシー運転手はもう帰されたのかも知れない。

間もなく夜が明ける。

26 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:13:33.702 ID:kC/0uo990.net

( ^ω^)「わかりますお」

俺はグラスを空にしてテーブルのうえに置いた。

グラスの濡れた曲面の向こう側にセイラムの箱が歪んで見えた。

( ^ω^)「わかりますお。
       ちっとも意地悪くなんかない。
       むしろ健全だと思いますお。
       少なくともあの満員電車の、顔のない、他人を肘でこづく勤め人連中よりは」

兎尊はゆっくりと庭に眼をやった。

俺は彼女の視線を追った。

夏がもどらないことを嘆く女の横顔としては完璧なしあがりだった。

彼女の首筋の細さがくっきりと浮かびあがった。

かつて俺は一度だけその首筋に触れたことがあった。

むろんたいしたした事件ではない。

もう何年も前のお互いの気まぐれだ。

しかしフィルム保管室の冷え冷えとした、埃の入り混じった空気のにおいをごくまれには思い出すこともある。

じきに俺はそのコマーシャル制作会社のアルバイトを辞めた。

それきりだ。

彼女が電話をかけてきた時は驚いた。

仕事の依頼だとわかり、安心と軽い失望の両方をいっしょに味わった。

電話帳をめくっていたら見つけたのよ、と彼女はいった。

そして、あなたの名前ってかわってるすぐわかった、とつけ加えて低く笑った。

声はかわらなかったが、香水は昔のものと違っていた。

モクセイの群落のかげに薄紫色の小ぶりな花が見えた。

丈も高かったが、花弁はそれぞれに隙間をおきながら独立していて、どことなくはなやぎが感じられない。

7 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 16:46:29 ID:kC/0uo990.net

開け放った窓から風が吹き込んでくる。

庭にモクセイの花が咲き、香っている。

彼女のつけている香水を打消すほど強く香った。

毎日この庭を見つめながらこの女はなにを考えて暮らしているのだろう。

たとえば、遺書の文句を考えている。

私が死んでも窓はいつでも開けたままにしておくように、庭と花々が見えるように――というふうな。

ドア脇の壁にはフジタが一枚かかっていた。

大判の絵ハガキくらいの大きさで、
溶けた蝋の色の肌をした若い女がカフェの高いスツールに座って、
曇り空の表をガラス越しに眺めている。

注意深く見ると、そこはパリ六区、レンヌ通りとラスパイユ通りの交差点にあることが標識から読みとれる。

さりげない飾りかたから見ると、ひょっとしたら本物かも知れない。

この食事室と居間を兼ねた広い部屋には装飾はほとんどない。

ブリタニカの英語版の百科事典も、無造作に投げ出された「ジャルダン」や「エル」もない。

毛玉の玉も、作りかけの刺繍もない。

ネコもイヌもいない。

実用的だとはまるで思えないマントルピースの上に銀色の小さな杯がぽつんとのっている。

台座には由来がなにも記されていない。

ただ「KYONAN '69」というプレートだけがはめこんである。

43 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:33:15.243 ID:hUzUYxQlM.net

支援

53 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:40:05 ID:Y78X+I0M0.net

支援支援

101 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 18:39:02 ID:kC/0uo990.net

( ´_ゝ`)

背の高い男が刑事部屋に入ってくるのが見えた。

俺たちの姿をみとめるとまっすぐに近づいてきた。

( ´_ゝ`)「よぉ、探偵」

と俺に声をかけた。

( ^ω^)「やぁ」

と俺は答えた。

すこぶる情けない声だった。

自分で自分を嫌悪した。

( ´_ゝ`)「今度は大事件だったな。
     ピストルで狙われたんだって?」

( ^ω^)「別に俺が狙われたわじゃないですお。
      自分には覚えがまるでないんだから」

( ´_ゝ`)「まぁそういうなって。
     命を狙われるくらいの大物になって貰わなきゃ、
     俺としてもさびしいぜ」

流石という刑事はそんなことをいいながら俺と刑事のいるデスクの脇に立ち、
ロングピースに火をつけた。

この男には時どき情報を貰う。

かわりに酒をおごる。

刑事には珍しく一杯以上は要求しなかった。

そのかわり大衆小説と歌謡曲に関する長いレクチャーにつきあわされる。

バーのとまり木で股間をかくことさえしなければ、

普通の勤め人でも通らないことはない。

101 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 18:39:02 ID:kC/0uo990.net

( ´_ゝ`)

背の高い男が刑事部屋に入ってくるのが見えた。

俺たちの姿をみとめるとまっすぐに近づいてきた。

( ´_ゝ`)「よぉ、探偵」

と俺に声をかけた。

( ^ω^)「やぁ」

と俺は答えた。

すこぶる情けない声だった。

自分で自分を嫌悪した。

( ´_ゝ`)「今度は大事件だったな。
     ピストルで狙われたんだって?」

( ^ω^)「別に俺が狙われたわじゃないですお。
      自分には覚えがまるでないんだから」

( ´_ゝ`)「まぁそういうなって。
     命を狙われるくらいの大物になって貰わなきゃ、
     俺としてもさびしいぜ」

流石という刑事はそんなことをいいながら俺と刑事のいるデスクの脇に立ち、
ロングピースに火をつけた。

この男には時どき情報を貰う。

かわりに酒をおごる。

刑事には珍しく一杯以上は要求しなかった。

そのかわり大衆小説と歌謡曲に関する長いレクチャーにつきあわされる。

バーのとまり木で股間をかくことさえしなければ、

普通の勤め人でも通らないことはない。

58 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:43:20 ID:kC/0uo990.net

( ^ω^)「でも」

と俺は尋ねた。

( ^ω^)「なんですかお、その、幸運をってのは」

男はレモンの細片の入ったグラスを掲げながらいった。

( ФωФ)「なんというんですかね、習慣ですよ。
       私はラテンアメリカに長くいましてね、あちらのほうでは間髪いれずにいってやるんですよ、くしゃみをした人にね。
       幸運をって。
       そうするといったほうがね、百円玉を拾うくらいの運には巡りあえるらしいですよ」

彼はさっきからにおいの強い煙草を吸っていた。

その煙が俺のくしゃみを誘いだしたのかも知れない。

( ^ω^)「いつもここにくるんですかお?」

( ФωФ)「いつも」

と男は答えた。

とうにバスにただで乗れるようになっているはずだが、
多分自分のポケットの小銭を取り出し続けているだろう。

94 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 18:28:12 ID:kC/0uo990.net

ちょうど俺とすれ違いかけた二人の若者のうちの一人の頭部に、
赤黒い穴が開いていた。

顔の反対側、
射入孔とは全然つりあわない位置の下顎には、
もっと大きめの穴があき、
輪郭もあいまいに崩れた穴から血が滲むように流れ出していた。

それが射出孔だった。

( ゚д゚ )

その若い男は路上に寝転んだままわめきもしなかったし、
生涯はじめてで最後の経験についての感想を述べようともしなかった。

俺は眼をチックの患者のように激しく開閉した。

そのたびに鼻孔が醜く歪んだと思う。

俺はかたわらにしゃがみこみながら、
見た目の傷のひどさにもかかわらず、
撃たれた男には生き残るチャンスが十分にありそうだと考えた。

多分、
あまりにも理想的な角度で頭蓋骨に対して弾頭が侵入してきたため、
比較的口径の小さな、
それでも頭蓋骨を貫通する力を持った弾頭だが、
頭皮と骨の間に滑り込み、
徐々に勢いを減殺されながら頭骨のぐるりを骨膜を裂きながら半周して再び顔面の軟部を突き破り、
下顎の骨にあたって飛び出してきたのではないだろうか。

ずっと以前、
今の商売をはじめる前に一度か二度、
こんな弾頭の気まぐれな傷を見たことがある。

60 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:46:13 ID:kC/0uo990.net

( ^ω^)「いつもですかお」

( ФωФ)「もう例外なし。
       六時に仕事が終わる。
       六時五分にはこの店に入る。
       レモン割りを二杯飲む。
       つまみを二皿食べる。
       一時間ずっと立っている。
       ぴったり一時間で膝が痛くなるので店を出る。
       そういうことです」

( ^ω^)「そういうことですかお。
       こういうタイプの店が好きなんですかお」

( ФωФ)「好きだねえ。
       思い出すんだよ。
       いろんなことをね」

( ^ω^)「はぁ」

男はグラスを口に運んだ。

末期の水で唇を湿す程度にしかグラスの内容を減らさなかった。

手の甲の皮膚には濃いしみがいくつも浮いていた。

89 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 18:21:22.292 ID:sTPVx42qd.net

4円

3 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 16:35:55 ID:kC/0uo990.net

――

彼女は台所からコーヒーカップをふたつ、お盆に入れて運んできた。

それをテーブルに置くとき、襟元がゆったりとひらき加減の薄いセーターの隙間から乳房の谷間の入口がのぞけた。

肌は卓上の陶器のミルクピッチャーの表面みたいに白かったが、それほどには冷たくなさそうだった。

てのひらをおけばたちどころに薄赤く染まるだろう。

それは、リトマス紙を夏蜜柑の果肉に触れさせることと同じくらい確かなことだと思われた。

しかし、彼女が意識してそんなセーターを着け、そんな姿勢をとったのかどうか俺には判断がつきかねた。

(゚、゚トソン「ミルクとお砂糖は?」

と都村兎尊はいった。

( ^ω^)「いれたほうがいいと思いますかお」

と俺はいった。

(゚、゚トソン「お好きなようになさってください」

結局なにも彼女はいれなかった。

(゚、゚トソン「こんな朝早く起きるの? 探偵って」

( ^ω^)「普通、名探偵は眠りませんお。
       私はそれより少しだけ水準が落ちるので片目をあけて眠りますお。
       それでも時々は眼を休める必要があるので交互に。
       月曜日には左眼をつむり、火曜日には右目をつむるというスタイルでやりますお」

72 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 18:00:00.822 ID:Y78X+I0M0.net

支援

49 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:37:05 ID:hU4pDrf4d.net

?

29 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:16:04.935 ID:kC/0uo990.net

( ^ω^)「よくこんなところで育てましたお」

兎尊が怪訝そうに振り返った。

( ^ω^)「花ですお。
       マツムシソウ。
       本来は高原にしか咲かない」

(゚、゚トソン「夫が植えたんです。
     時々水を自分でやります」

俺はいった。

( ^ω^)「マツムシソウの花言葉を知っていますかお」

兎尊は首を横にふった。

鼻根からかなり高い鼻梁が自然光を遮って右眼に濃い影を投げていた。

(゚、゚トソン「なに?」

彼女は俺を促した。

俺は答えた。

( ^ω^)「寡婦の悲しみ、というんですお」

152 :◆CaOyByoJC6 :2020/05/26(火) 20:44:26 ID:5f1Ke4J80.net

ブーン系まとめサイト「Boon's Beautiful Harmony」の管理人です
この作品を当サイトで保管してもよろしいでしょうか

41 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:31:56.293 ID:Y78X+I0M0.net

支援

51 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:39:35.466 ID:sTPVx42qd.net

支援

62 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:47:59.821 ID:kC/0uo990.net

( ФωФ)「ディエンビエンフーが陥落したニュースを聞いたのが、これとそっくり同じ感じの店だった」

( ^ω^)「どちらですかお。浅草?」

( ФωФ)「パリだよ。トゥルピゴ街の角。
       コンセルバトワールの近くで、うちのヨーロッパ総局のしたさ。
       知っているかね」

( ^ω^)「いえ。まだ外国へは一度も」

( ФωФ)「それはいかんよ。
       君は出かけるべきタイプだ」

俺は老人の顔をまじまじと眺めた。

彼の眼は笑っていなかった。

( ФωФ)「君の顔はそういう顔だ。
       外国で苦労するべきだ。
       苦労すれば味の出る顔だ」

( ^ω^)「ありがとうございますお」

( ФωФ)「苦労しなくちゃだめな顔ともいえるな。
       どことなく下品だ。
       君の職業を当ててみようか」

( ^ω^)「お願いしますお」

( ФωФ)「芸能プロダクションのマネージャー。
       いいかえれば、まぁ女衒だな。
       化石化した良心をまだ箱につめてしまってある根性のない女衒だな。
       どうだ。いいところを突いているだろう」

( ^ω^)「恐れ入りますお」

俺は都村を盗み見た。

彼は相変わらず同じ場所にいた。

片肘をカウンターにつきグラスの中を覗き込んでいた。

魂を酒のグラスに落としてしまったボクサーが、
自分の闘争心に自信を失って引退の決意を固めようとしているシーンに使えそうだ。

69 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:56:46 ID:kC/0uo990.net

電車の間隔があいているらしく、プラットホームには人があふれだしていた。

俺は憂鬱になった。

都村がどこの駅で降りるのか知らないが、
そこまで少なくとも誰かの禍々しい整髪料のにおいに悩まされることは避けられない。

ハンカチだけは出しておこう。

四半世紀前の日活の映画スターみたいに歩きながら変装のつもりで顔をおおったりはしないが、
くしゃみの衝動が起きたら間髪をいれずに使えるように。

案内サインが電車の入線してくることを告げた。

都村はいまやホームのいちばん前に立っている。

俺も自然にそうなった。

ドアが二つ分は離れているが同じ車輛に乗ることになるのたしかだ。

地下鉄の向こうが明るくなり、臆病な甲虫を思わせる電車が近付いてきた。

黄色い光を放つ二個の目玉が見えて、遠路が振動し、轟音が大きくなった。

電車が入るときにはホームの真ん中にいるものは半歩前進し、
ホームの端にいるもは半歩後退する。

俺も無意識のうちに、わずかに身をひいた。

33 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:22:50.440 ID:kC/0uo990.net

空がモンブランのブルーのインクの色になり、やがてプロシャ人の軍服の色に変っていった。

人通りが少しずつ減り始めた。

それでも俺は同じ場所を動かなかった。

ハイライトを吸い、半分ほど吸ってはレモンドロップスの入っていたブリキの缶の蓋でにじり消し、缶の中におさめた。

俺を見とがめるものは誰もいなかった。

誰も気にしている暇はないのだろう。

ごく稀に地下鉄の駅のほうへ人波からはずれてゆっくりと歩く男が俺に眼を向けた。

それもほんの一瞬のことでじきに歩み去り、どちらも顔を忘れてしまう。

彼らのほとんどが中年というより初老に近い男で、体が小さく、背中が曲がっていた。

一本抜けるごとに手帖にバツ印をつけていそうな髪の持主で、そういうタイプに限ってポマードをべったりと塗りたくっている。

71 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:59:42.635 ID:kC/0uo990.net

俺は両腕を前にではなく、うしろに泳がせた。

なにか硬いもの――コンクリートだと思った――が指先に当たった。

掴めはしなかったが指が引っかかった。

爪をなくし、一生ビールのプルリングが引きあけられなくても構わないと思った。

そのまま指先のかかった右手を支点にして大きく、体を振りながら地面に倒れた。

それしか助かる道はなかった。

倒れた拍子にすねをいやというほど柱の角にぶつけた。

涙が滲み、ほぼ同時に電車の先頭が強風とともに俺のすぐそばを駆け抜けた。

気を狂わせる音量の警笛が地下ホームのすべての空気を震わせた。

しかしすべてが一瞬のうちに始まり、
一瞬のうちに終わったので、
悲鳴の得意な若い女も準備する暇はなかった。

この殺人未遂に気付いたものさえ意外に少なかったかも知れない。

81 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 18:06:31.861 ID:sTPVx42qd.net

支援

118 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 19:03:00 ID:kC/0uo990.net

俺は彼女の過酷な要求を十分に満たそうと努力した。

一リットルの汗と虚脱感がその労働の報酬だった。

フィルム保管室の事件を思い出した。

もっとも、
いまの行ないそのものが六フィートの波の立つ海だとしたら、
油を流した海の、それも岸辺のできごとにすぎなかったが。

それは、俺の眼から見ればこんなふうだった。

フィルムを棚に並べて、
人の気配にふり返ると兎尊がドアをうしろ手に閉じてたたずんでいた。

俺は多分、
あいまいな微笑を浮かべて意味のないことを彼女にいった。

彼女はそのコマーシャルフィルム制作会社のディレクターのアシスタントで、
俺は昼間はそこでアルバイトし、夜は学校に通う、
ひねて老けた苦学生だった。

身分が違う、
というきわめて古典的なエクスキューズが俺の脳裡をかすめ飛んだ。

しかし、彼女はつかつかと俺に近づき、
土俵際で駄目を押す力士みたいな仕草で俺を湿った壁に押しつけた。

自分の片手を壁についた。

お蔭でさらにぴったりと壁に押しつけられる恰好になった。

俺は牛にアリーナの側壁までおいつめられた闘牛士の心がわかる気がした。

それから彼女は唇を近づけた。

俺は眼を閉じようかどうしようか迷った。

考えたあげく眼をひらいたままにしておくことにした。

30 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:17:09 ID:5ildZxXra.net

紫煙

66 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:51:38 ID:kC/0uo990.net

都村が出口に向かって歩きだした。

日本の酒屋の店頭の立ち飲みの伝統を忠実に受け継いでいるので、
勘定はキャッシュ・オン・デリバリイだ。

だから帰る客はふらりと歩きだし、ふらりと出ていけばいい。

俺は都村のあとに続こうとした。

左脚から歩きかけた瞬間にまた大きなくしゃみが出た。

今度もまたハンカチでカバーする余裕はなかった。

店のざわめきが消えた。

嘆きの壁も崩しかねない大きな音がしたのだろう。

俺は少しばかり恥じた。

( ФωФ)「ブエナ・スエルテ」

幸運を、と老人が焼酎のレモン割りをさしあげて、いった。

俺は答えた。

( ^ω^)「ムーチャス・グラシアス」

154 :◆CaOyByoJC6 :2020/05/26(火) 20:52:08 ID:5f1Ke4J80.net

ありがとうございます、近日中にまとめさせていただきます

Boon's Beautiful Harmony@令和のブーン系小説まとめサイト
https://reiwaboonnovels.web.fc2.com

97 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 18:32:51 ID:kC/0uo990.net

( ^ω^)「気の毒だと思いますお」

( ´ー`)「そこらのスナックのバーテンだった。
     バーテンといっても氷を割るのに自分の歯を使うようなタイプだけどな」

( ^ω^)「店の名前を教えてくださいお。
       そこへは近づかないようにしたいから」

( ´ー`)「当分あの顎は使いものにならんだろう。
     だから心配することはないぜ」

( ^ω^)「それはよかった」

( ´ー`)「だけどな」

と刑事はいって、椅子を正しい位置に戻し、身を乗り出した。

( ´ー`)「だけどまだねんねでさ、人に恨まれるような一人前のことなんかできやしない」

息がにおった。

過重な深夜労働のせいだろうか。

それとも、夜のにおいってやつはもともとこんなだったろうか。

( ´ー`)「狙われるようなタイプはあそこにはいなかったんだよな、ひとりも」

( ^ω^)「そうですかお」

( ´ー`)「おまえしかいないんだよな、狙われるとすりゃ」

俺もそう思った。

地下鉄の一件といい、この大げさな狙撃といい、偶然とは思えない。

しかし認めるわけにはいかなかった。

自分には心当たりがまるでなかった。

どちらにしても、
おそらくかなり長時間にわたって尾行し続けただろう、
相手の存在に気付きもしなかった自分を恥じなければならない。

137 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 19:52:10.205 ID:kC/0uo990.net

男の顔に見覚えがあった。

しかし、
この状況で思い出せというのは無理な注文だ。

無意識にあとずさろうとしたが壁がぴたりと背中に触れただけだった。

手の中に残っていた、
かつて受話器だったプラスチックの残骸を捨てた。

どうするべきかを考えたが、
まるでいいアイディアが浮かばない。

神に祈ることさえ思いつかなかった。

彼の手の中で拳銃の回転弾倉がまわるのが不思議によく見えた。

眼を閉じるべきかどうか迷った。

銃声がキーになって、
狂気の男と以前どこで会ったか思い出した。

 彡⌒ミ
( @_ゝ@)

最初に都村を張りにいった日に溜池で俺をしげしげと眺めていた男だった。

あの小柄な、
貧相なジャン=リュック・ゴダールをさらにひとランク貧相にした初老の男だった。

弾着の衝撃を待つごく短い時間のうち、
それだけのことを考えた。

10 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 16:53:37.076 ID:kC/0uo990.net

( ^ω^)「自分にあってるかって訊きましたおね、この商売が。
       多分あっているんだと思いますお。
       少なくとも朝の電車に乗らなくても済むのはとても気分がいい」

(゚、゚トソン「満員電車?」

( ^ω^)「満員といういいかたは手ぬるすぎる。
       昔、インドでベンガル人が使った穴みたいなものですお。
       六メートル四方の四角い穴の中に百二十人のイギリス人を詰め込んだそうですお。
       二日たったら生きているのは何人もいなかった」

(゚、゚トソン「アメリカの学生がよくやるでしょ。
     電話ボックスに何人いれるか競争する」

( ^ω^)「そうですお。
       日本人は毎日あれをやっているんですお。
       命がけのゲームをしながら会社へ通っている。
       とりわけ池袋新宿間なんてすごいものですお。
       久しぶりに乗ってみましたがね、感動しましたお」

(゚、゚トソン「感動?」

( ^ω^)「ええ。
       発見といってもいいお。
       あの、恐縮ですがやはりいただけますかお、体の温まるもの」

兎尊は笑いながら俺をにらむ真似をした。

宿題を忘れた小学生の弁解に説得されたふりをする女教師の役になろうというらしい。

52 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:40:02 ID:+T11qooE0.net

?

123 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 19:07:02 ID:kC/0uo990.net

( ^ω^)「彼は昔の彼ならず、ということもあるお」

(゚、゚トソン「そうね。
     そういうこともある。
     でも、あなたはかわってなかった」

( ^ω^)「そうかお」

(゚、゚トソン「そうよ。
     昔から同じにおいがした」

( ^ω^)「そうかお」

(゚、゚トソン「かわったのは体つきだけ。
     お腹が前よりずっと出ているってことだけ」

なんと答えていいのかわからなかった。

多少の修辞学を使ってもらわなければ答えにくい。

真実に近づきすぎるのはときに罪だ。

( ^ω^)「それで、君はなにかわかった?
       なにか決断した?」

彼女はシーツをすっぽりかぶった。

そして、いった。

(゚、゚トソン「なんにも」

彼女はシーツのしたで身を丸くした。

(゚、゚トソン「ほんとうに、なんにも。
     わかったのは、私がこういう行為に飢えていたということだけ。
     たったそれだけ」

11 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 16:56:42 ID:kC/0uo990.net

( ^ω^)「白だったら」

白だったらいらないと言おうとした。

どうせ冷蔵庫で身もふたもなく冷やしてあるはずだ。

風邪薬としてはふさわしくない。

(゚、゚トソン「赤。安物」

( ^ω^)「なんですかお」

(゚、゚トソン「コート・デュ・ローヌ」

( ^ω^)「そいつはいい。
       名うての安物だお。
       なまぬるいコート・デュ・ローヌを飲むとパリ時代を思いだすお」

(゚、゚トソン「あなたパリにいたことがあるの?」

兎尊は立ち上がりかけた姿勢のまま尋ねた。

( ^ω^)「ありますお、三日だけ。
       三年間、昼を抜いて団体で行ったんだお」

俺は台所の兎尊に向かって喋りつづけた。

ここからでも食器棚の隙間を通して兎尊の体の一部が見えている。

55 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:41:22.601 ID:kC/0uo990.net

( ФωФ)「ご幸運を」

と隣の男がつぶやいた。

太いストライプの入った栗色の背広を着た老人だった。

頬がつやつやと輝いている。

彼の頭は俺の口元よりしたにあった。

俺は彼にいった。

( ^ω^)「すみませんお、お騒がせして」

( ФωФ)「いいや、構いませんよ」

とストライプの男はいった。

( ФωФ)「風邪ですか?」

( ^ω^)「ええ。
       季節の変わり目の、よくあるやつらしいですお。
       金太郎の腹掛けをして寝ればよかった」

ストライプの老人は快活そうに笑った。

128 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 19:40:02 ID:kC/0uo990.net

――

その夜、俺は池袋で飲んだ。

胃を裏返してスポンジで洗いたくなるほどに飲んだ。

酒場では傍若無人にふるまうサラリーマンの三人組と険悪な雰囲気になりかけたが、
マスターが間に入っておさめてくれた。

マスターは俺の背中を押しながら低い声でいった。

ひと月くらいは顔を見せないでくれよな、
今夜のあんたは態度がいいとは全然いえないぜ。

(*^ω^)

俺は駅前にのビルの地下にある駐車場のほうへ歩いていった。

二人連れの男女が、
百メートルも先から俺を避ける様子がありありとわかった。

風邪がぶり返しそうな予感がした。

俺は地下駐車場に続く長い通路をゆっくり降りていった。

景気づけにどういう歌を歌おうかと考えていた。

大きな声で、春の日の花と輝く、と歌いはじめたが、
あとが続かなかった。

酔っていようがいまいが記憶力に差はないはずなのだが、
俺はアルコールのせいにした。

実際に春の日が花と輝くとすれば、
そんな些細なことを気にする必要もなくなるだろう。

俺は奇妙なまでに楽観的だった。

近づきつつある寒さと頭痛の季節のことを、
無意識のうちに忘れようと努力していた。

駐車場の奥、
何十本かのコンクリートの柱を通り過ぎたどんづまりに赤電話があるのを知っていた。

だらしない部屋からではなく、
ちゃんと服を着たままで電話をしたい女がいるときには、
よくここを利用する。

27 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:14:49.147 ID:Y78X+I0M0.net

支援支援

134 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 19:48:55.005 ID:kC/0uo990.net

彼女がぽつりといった。

あの人の相手に、
といいかけて言葉を切り、
いくつもの季節がとおりすぎイタリアも冬になったと思えるほどの長い沈黙のあとで、
ようやく言葉を継いだ。

あの人の相手には子供がいるの?
それは、あの人の子供?

俺は黙り込んだ。

どういえばいいのかわからなかった。

受話器を逆の手に持ちかえ、
姿勢をかえた。

横向きになり打ちっ放しのコンクリートの壁に体をもたせかけた。

片方の手のひらで顔を強くこすった。

静まり返った広い駐車場で、
俺は孤独という言葉を実感した。

50 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:38:13.920 ID:kC/0uo990.net

都村がアメリカでの仕事を、
やはりBプラスの成績で終えて帰った時から二人の関係はすっかり変質せざるを得なかった。

兎尊が流産していたからだ。

彼女は誰にも責められなかった。

伊豆のリゾートマンションに住んでいた義父母にも、都村自身にも責められなかった。

しかし誰もが悲しんだ。

二度と子供ができない体になったことを知らされた都村は、
それでも、
物置から不要不急の芝刈機を取り出そうとして転んだ彼女を責めなかったが、
二人の間は確実に冷えた。

ジョギング・シューズの宣伝にそのまま使いたいと広告マンが誘惑に駆られる彼の微笑は変わることはなかったが、
都村の側頭部の白髪の数が増し、
兎尊の目尻の皺が深くなるに従って、
二人の会話は二次関数のグラフに下降線のように減った。

兎尊は報われない大きな乳房を両手で抱え込みながら、尼僧ヨアンナの嘆きをなぞるように味わった。

都村がまた調理場のカウンターに近づいて、飲み物のおかわりを注文した。

俺も同じようにした。

相手は鏡の中の自分以外にはまるで関心を払わない。

かといってナルシストというわけでもなさそうだ。

暗い、
とはいえないが、
スナップ写真の中の男は少なくとも明日の試合に備えていたが、
現実の彼はそうでもない。

毎日の練習は欠かさないが、
試合だけは一生やるまいと心に誓ったボールゲームのプレイヤーのようだった。

107 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 18:47:51 ID:kC/0uo990.net

( ゚∋゚)「サダコさんに電話したです。
    そして、すぐ来なさいといったです。
    そして僕はお金がないですね。
    大久保から歩いてきたです。
    大森は遠いでないですか」

じゃ帰れば?
といいかけてよした。

大きな体に似合わない不安を灰色の眼に宿した男に、
少しばかりの同情心を感じたのだ。

大久保あたりの外人宿に住んで、
夕食には焼いたサンマを酔客のおごりで食べているクラスとしては日本語の入り筋もいい。

頭は悪くないだろう。

俺はこの男を、
外人のホーボー族に優しいサダコおばさんのところへ行かせてやってもいいと思い始めた。

( ^ω^)「わかったお」

といって、
俺はポケットから百円玉を何枚か掴み出した。

俺の命を弾丸から救ってくれたはずの一枚も混じっているはずだが、
そいつを額に入れて飾っておく趣味はなかったので、
まとめて彼の手に押しつけた。

( ^ω^)「やるからあっちへ行けお」

大男は微笑して腰を折った。

( ゚∋゚)「ありがとう」

( ^ω^)「いいんだお。
       俺は日本人には珍しく親切なんだお」

117 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 19:01:39 ID:kC/0uo990.net

あなたとはこんなことをしてみたかったのよ、
と兎尊は喘ぎながらいった。

フィルム保管室で偶然みたいにあなたにキスされてから、
時々思い出していたわ。

ずっとよ。

ずっと。

俺も告白した。

再会したときに淫らな思いを持ったことを。

ただし、
仕事の依頼の電話を貰うまでは、
こんなことを一度も思いだしたことはなかったということは黙っていた。

なぜあなたを家に呼んだかわかっちょうだい、
と彼女は俺の体のしたで囁いた。

なぜだと尋ねた。

ひょっとしたらこんなことをしてくれるかも知れないと思ったの。

午前中というのは女がいちばんいやらしくなるときなのよ。

彼女は俺に背中を向けたがった。

そして尻を高く掲げ、
興奮が昂まると、
お尻をつねって、
もっと強くつねって、
と絶叫した。

133 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 19:47:26.981 ID:kC/0uo990.net

(#^ω^)「……主人が起きる?
      どうしようと構わないお。
      もしよかったらご主人を電話に出してくれお、俺が説得するお。
      俺には自信があるんだお。
      飲んだせいじゃないお。
      飲んだせいかも知れないがこの自信は本物だお。
      叩けばいい音がはね返るお。
      貯金箱を叩き壊すお、俺。
      それにここだけの話だが、最後の砦にと思っていくらか貯えもあるんだお。
      国債を売り払っちまえば……そりゃ百にもならないかも知れないが、あなたの費用ぐらいは出せるお。
      ネコには家を出てもらって、アパートは引き払うお。
      もううんざりしたんだお、球屋の二階の床のきしきしと鳴る部屋にも、池袋の猥雑な夜にも……カプリだお。カプリ島。
      イタリアのほくろみたいな島。
      そこで俺はタイプライターを買って。
      打てやしないけど、たいした問題じゃないお。
      ユリシーズを主人公にした小説を書くんだお。
      君は泳いでりゃいいお。
      そうするとアメリカの映画プロデューサーがやっくる。
      君はそいつをちっとも好きじゃないくせに、俺に別れを告げて出ていく。
      俺は理由もわからずひたすら悲しみ続け、地中海の海の青さが眼にしみるってわけだお。
      どうだお? 悪くないだろうお」

俺は三日熱のマラリア患者のように一気にまくしたてた。

息が切れ、
脈搏が早くなっていることに気付いた。

彼女は黙ったままだが、
まだ電話線は死んではいなかった。

俺は待った。

そして哀願した。

そうするうちに少しずつ本気になっていった。

どうでもいい与太話がが現実になり得る気がした。

じりじりとしつつ、
なにもかもが原色のイタリアのイメージを膨らませ、
もてあました。

119 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 19:03:19 ID:Xp7mgSkKK.net

おー未だに書いてるのいたのか
したらばもすっかり見なくなったわ
がんばえー

126 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 19:20:43 ID:Y78X+I0M0.net

規制を食らったかな?

129 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 19:40:57 ID:kC/0uo990.net

腕時計に眼をやると、
午前一時三十分を少しまわっていた。

なに、構うものか。

思い立ったときがいちばん実りの多いときだ。

またそうするべきだ。

受話器をとりあげコインを落としこんでダイヤルをまわした。

ひょっとしたら、と俺は考えた。

彼女は一人でいるかもしれない。

ベルの鳴る音を数えているとき、
ひょっとしたら、と再び考えた。

彼女は俺からの電話を待っているかも知れない。

フランスとじの本のページをペーパーナイフで切り裂きながら。

147 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 20:08:28.922 ID:Y78X+I0M0.net

乙でした!

改行を工夫してくれるともっと読みやすくなって助かるんだぜ!

23 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:11:17 ID:Y78X+I0M0.net

支援

47 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:35:37.656 ID:kC/0uo990.net

彼が兎尊と結婚して九年になる。

真冬にスキー場で知りあい、春にはいっしょになったという。

彼のスキーは抜群にうまかった。

小雪の煙るもっとも急なスロープえお一人で華麗に滑り降りていく姿を見た瞬間、
雷の一撃に打たれたのよ、
と兎尊は俺にいった。

有名な私立大学のサッカー部出身で、卒業すると大手の事務機の会社に入った。

結婚した翌年、都村はニューヨークの提携会社に一年間出向した。

社内ではこのコースは将来の出世を約束されたと同じ意味がある。

数人の仲間と一緒だった。

兎尊は同行しなかった。

妊娠の中期に入っていたからだ。

彼女は二人のために、都村の両親が明け渡してくれた荻窪清水町の家で帰りを待っていた。

都村はアメリカから一週間に一度ずつ国際電話をかけてきた。

兎尊はしだいに大きくなる腹をいたわりながら、赤ん坊の肌着をつくり続けた。

19 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 17:08:43 ID:kC/0uo990.net

( ^ω^)「しかし手も動かない。
       誰かが俺の足を踏んづけようと探していたみたいだけど果たさなかったお。
       なんとか努力して果たさせなかったお」

(゚、゚トソン「こすいのね」

( ^ω^)「防衛的な性格なんですお。
       新宿へ着くまでずっと週刊誌の広告を読むふりをしていました。
       それ以外には生き延びる手段がなかったですお。
       彼をその気にさせるにはオーラルセックス。
       してあげるからしてもらえる、それが性のルール。
       すっかり覚えてしまったほどですお」

俺はついにグラスを空にした。

彼女は俺の眼の中を覗き込んだ。

もう一杯飲みますか? 飲みましょう。

ただしこれでおしまいだ。

( ^ω^)「新宿から中央線に乗り換えた時は心から安心しましたお。
       ガス室の一歩手前で番人に、今日の営業は終わり、と言われた気分ですお。
       すいている逆行電車に給料日前のヤクザみたいにだらしなく腰おろして、
       自分の人生の選択が正しかったことを確認しましたお」

(゚、゚トソン「なに?」

( ^ω^)「三菱商事を蹴っ飛ばして探偵になったことですお。
       ひょっとしたら回教国の秘密警察の拷問は耐えられるかもしれない。
       でもあれだけは駄目だお。
       満員電車だけは。
       あの孤独と憎悪だけは」

(゚、゚トソン「そう?」

と兎尊はいった。

130 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/26(火) 19:43:04.501 ID:kC/0uo990.net

十回までベルが鳴り、
また一から数えなおした。

ゆっくりと七つまで数えたとき受話器のはずれる音がした。

深い息に続いて、兎尊の声がした。

( ^ω^)「俺ですお。
      こんな夜遅く電話して済まないと思うお。
      聞いて欲しい話があるんだお」

俺は一気にそれだけ喋った。

電話線の向こう側の端からは、
しかし、なんの反応もなかった。

( ^ω^)「聞いているのかお?
      もしもし、聞いてますかお。
      話してるのは俺ですお」

兎尊の声が、わかります、
聞こえていますといった。

あたりをはばかっている低い声だった。

( ^ω^)「提案があるんだお」

と俺はいった。

明日にしてくださいと彼女がいった。

( ^ω^)「明日にはなりませんお。
      いまでなきゃ駄目ですお。
      いま返事をして欲しいんだお。
      飲みながら考えていたんだお。
      君と別れてから、ずっと。
      ずっとだお、あなた」

明日にしてくださいと、彼女は繰り返した。

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